水やりや害虫チェックなど目が届く涼しい場所で育苗
日本の有機農業のパイオニアのひとり。埼玉県本庄市の瀬山農園(2001年有機JAS認証)で有機・無農薬での野菜づくりを長く続ける。現在は息子に農園代表を譲り、本業の農業の傍ら、畑の一角に家庭菜園をつくって、おもしろ実験栽培を実践中。
長年学んできた、栄養週期理論と農業気象学を野菜栽培に活かしている。
秋冬野菜の苗づくりは夏に始まります。私の場合は、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワーは8月上旬にタネをき、ハクサイとレタスは8月下旬にタネをまきます。
夏野菜の育苗は寒さ対策に気を使いますが、気温が高い時期に育苗する秋冬野菜の場合は、涼しい環境での苗づくりが基本です。木陰や軒下など日差しが強くない場所で、水やりがしやすく、生育や害虫のチェックがすぐに行える目が届く場所で育苗するとラクです。
この時期は虫の活動も活発なので防虫対策にも工夫が必要です。幼い苗を外に並べたままにせず、必ず寒冷紗や防虫ネットなどで覆っておきます。
それでは、私が毎年行っている、根がしっかり発達する秋冬野菜の苗づくりを紹介しましょう。
育苗スタートは8月上旬!地床で育てるキャベツ・ブロッコリー・カリフラワー
長期収穫できるように品種を選んで育苗する
8月上旬にスタートするキャベツ、ブロッコリー、カリフラワーの育苗は畑で行います。畑の中でも涼しくて日陰になる場所に苗床を用意して、タネを直まきするのです。私の畑では、アーチ支柱を立ててツルを這わせているキュウリやインゲンの葉陰を利用して行っています。
同時に多く採れると困るし、長期間収穫が続いた方がうれしいので、キャベツやブロッコリーはひとつの品種だけをまかずに、左の表のように早生や中生、晩生、春向きの品種など、それぞれの品種の特徴を考えて数種類育てています。そのため、同じ頃に植えつけても収穫時期がずれるので長く収穫が楽しめます。カリフラワーはあまり本数が多くないので、「スノークラウン」(タキイ種苗)だけ育てています。
<キャベツ>
収穫:11月~4月中旬
・初恋(トーホク)早生
・金春(サカタのタネ)早生
・彩音(タキイ種苗)中晩生
<ブロッコリー>
収穫:10月下旬~4月上旬
・おはよう(サカタのタネ)中早生
・こんにちは(サカタのタネ)中生
・こんばんは(サカタのタネ)晩生
・すばる(ブロリード)早生
・ゆめさくら(野崎採種場)晩生
01 畑に苗床をつくる
◆タネまき1か月前までに太陽熱土壌消毒をする
畑にタネを直まきして苗づくりをする場合、タネまきをする1か月前から苗床(地床)の土を太陽熱土壌消毒しておくのが、成功のポイントです。
苗床にする畝に堆肥をすき込み、たっぷり水をかけて透明マルチをピンと張ります。
6月下旬頃に苗床の準備をしておけば、タネまきまでの間に太陽熱によって土が高温で蒸らされて、土中の病原菌や害虫の卵、草のタネなどがかなり死滅し、土の状態がよくなります。
土の量が限られている育苗ポットや育苗トレイでの育苗と違い、地床での育苗は管理がラクです。根を自由に伸ばせるので老化苗になる心配がなく、水やりなどの管理の苦労も減ります。
下図:畝を3本用意し、両端の畝にアーチ支柱を立てて園芸ネットを張る。両端はキュウリ畝なので黒マルチ、真ん中は苗床なので透明マルチを張っておく。
02 タネをまく
◆1粒ずつていねいにまき発芽までは乾燥に注意
キャベツ、ブロッコリー、カリフラワーの育苗期間は約1か月。私は8月上旬に太陽熱土壌消毒をしていた地床の透明マルチをはがし、畝の一部に2mm間隔でタネをまきます。タネが小さいので大変な作業ですが、ていねいに1粒ずつまきます。地床を用意できなければプランターでも大丈夫です。
タネは若干密にまいた方がよく発芽するような気がします。タネをまいたらジョウロで水をやさしくかけて、新聞を広げてかぶせておきます。発芽するまでは土の乾燥に注意し、発芽を確認したら新聞ははずします。
その後の水やりは不要です。苗が幼いうちに畑の環境を覚えさせるのです。水も肥料も簡単にもらえなければ、自分で根をしっかり伸ばして水分や養分を取りにいき、元気な苗に育ちます。
【Point】虫が入らないようにすぐに寒冷紗で覆う!
虫よけ効果だけでなく遮光効果もある寒冷紗
秋冬野菜を育苗するときにとくに気をつけなければならないのは、害虫被害と夏の日差しの厳しさです。
まだ気温が高く、虫が活発に活動している時期なのでちょっと油断すると、発芽したばかりの芽や幼い苗をボロボロに食害されてしまうことがあります。
害虫から苗を守るために、タネをまいたらすぐに寒冷紗のトンネルで畝をカバーしましょう。隙間がないように、裾をしっかり土に埋めてガードしておくと、這って侵入するネキリムシの幼虫などの被害も防げます。
畑の中では比較的涼しいキュウリやインゲンの葉陰に地床をつくってはいますが、遮光効果のある寒冷紗トンネルで覆うことで、虫よけの効果以外にも発芽した幼い苗を強い夏の日差しから守ることもできます。
下図:地床はタネをまいたらすぐに寒冷紗のトンネルで覆う。裾は面倒でもしっかり土に埋めて虫の侵入を防ぐ。
03 本葉3~4枚で移植する
◆一度植え替えて根を切り新しい根を出させる
畝の一部に密まきしたタネが発芽し、本葉が3~4枚出た頃に、一度植え替えをします。植え替える場所は空いている畝の部分です。今度は株間5~6cm、隣同士の葉と葉が重ならない程度の間隔で植えつけます。
移植することで一度根を切って新たな根を出させるのです。畑に定植するのは本葉が4~5枚の頃なので、期間はそれほど長くありませんが、このひと手間でより丈夫な苗に育ちます。
苗の移植を終えたらすぐに寒冷紗トンネルで畝を覆います。裾もしっかりと土に埋めて害虫から苗を守ります。地床で育苗すると定植日が多少遅れても根が老化しないので、自分の都合に合わせて定植できるのが利点です。
涼しいところで育苗します。